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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)2619号 判決

控訴人 関口文男

被控訴人 柳金属株式会社

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の建物及び工作物を収去して、同記載の土地を明け渡し、かつ昭和四六年一二月一日から右明渡ずみまで、一か月二〇万円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

控訴棄却。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加し、改めるもののほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  「本件土地」、「本件建物」及び「本件工作物」とは、いずれも、別紙物件目録記載のものを指す。

2  原判決二枚目裏五行目の「本件土地の賃貸借契約」を「本件土地の賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)」に、同八行目の「工作物」を「本件工作物」に、同末行の「本件土地の賃貸借契約」を「本件賃貸借の」に、同三枚目表初行の「工作物」を「および本件工作物」に、同二行目の「翌日」を「日の翌日」に、同八行目の「本件土地の賃貸借が」を「(一)本件賃貸借は」に、同九行目の「屑鉄置場としての仮設建物の所有」を「屑鉄置場及び仮設作業場としての本件建物の所有を目的とするもの」に、同一〇行目の「ある」を「あるから、昭和四六年一一月三〇日の経過をもつて終了した」にそれぞれ改める。

3  同三枚目表一〇行目の次に、次のとおり加える。

(二) かりに、本件賃貸借が、一時使用の賃貸借でなかつたとしても、右賃貸借の目的は、屑鉄置場としての使用及び本件建物の所有を目的とするものに限定されたものであり、その余の建物ないし工作物を建設することはできない約定であつたにもかかわらず、被控訴人は、昭和四五年二月ごろ、本件土地上に本件工作物を建設した。

よつて、控訴人は、被控訴人に対し、昭和五六年二月三日(予備的に、同年四月三〇日)の本件口頭弁論期日において、右用法違反を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

(三) かりに、右(二)の約定が認められなかつたとしても、本件賃貸借は、普通建物所有を目的とするものであるところ、被控訴人は、右のとおり本件土地上に、重量鉄骨を用い、地中深くに基礎を設けた堅固な建物又は堅固な建物に類する構造を有する巨大工作物である本件工作物を建設したので、控訴人は、被控訴人に対し、右用法違反を理由として、右(二)の本件口頭弁論期日において、賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

4  同三枚目裏二行目から三行目の「主張のころ」を「主張の日」に改め、同四行目の「否認する。」の次に「右賃貸借には期間の定めはなかつた。」を加える。

5  同三枚目裏末行を次のとおり改める。

(一)  再抗弁(一)の事実は否認する。

(二)  同(二)の事実中、控訴人主張のころ、被控訴人が本件工作物を建設したことは認めるが、その主張のような約定の存したことは否認する。

(三)  同(三)の事実中、本件賃貸借が普通建物所有を目的とするものであること及び本件工作物が堅固な建物又はこれに類する構造を有する巨大工作物であることは否認する。

本件賃貸借は、その所有を目的とする建物については、普通建物、堅固建物のいずれとも限定しないものである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  控訴人が、被控訴人に対し、昭和四三年一二月一日、本件土地を賃料月額一〇万円の約定で賃貸したこと、被控訴人が本件土地上に本件建物及び本件工作物を所有して、右土地を占有していることは、当事者間に争いがない。

二  本件賃貸借における賃貸期間の約定について、次に判断する。

1  成立に争いのない甲第五号証、同第七号証、乙第八号証、原審証人深沢守の証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証、原審及び当審証人関口三代松、原審証人柳充希子(ただし、後記採用しない部分を除く。)同深沢守の各証言、原審及び当審における控訴人本人、被控訴人代表者(ただし、後記採用しない部分を除く。)の各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  控訴人は、本件土地を含む東京都練馬区貫井五丁目一二八七番一、同番四の宅地合計一〇七四・〇〇平方メートルのほか、約九九・一七平方メートル(三〇坪)の土地を所有し、自宅は本件土地近くの借地上にあり、そこで燃料商を営んでいる。

(二)  控訴人の営業は、季節によつて消長があるため、控訴人は、昭和三九年ごろから、右一二八七番一及び四の土地を賃貸して収入をはかつていたが、賃貸の期間は、長期にわたつて賃貸した場合、返還が困難となるのをおそれ、期間を一年間として、その都度返還を受けていた。

(三)  控訴人は、昭和四二年に、本件土地のうち北側部分の大部分を、訴外土井工務店に対し、建築工事のための資材置場及び現場詰所用地として一年間の約定で賃貸し、本件土地のその余の部分及び右一二八七番一及び四の本件土地以外の部分合計四六二・八〇平方メートル(約一四〇坪)を、訴外中村順造に対し、駐車場用地として、盗難防止のための基礎を有しないプレハブ造りの小屋に限つてその設置を認める約定で、一年間賃貸したが、いずれの賃借人との間においても、その趣旨の契約書を作成した。訴外土井工務店は、中途で倒産して賃料不払となつたので、控訴人において、不動産業者である訴外関口三代松(以下「三代松」という。)に依頼して交渉の結果、昭和四三年一〇月ごろ、その賃貸土地の明渡を受け、訴外中村順造も、賃料不払があつたため、その明渡について、裁判上の和解をした上、同じころ、その賃貸土地の明渡を受けた。

(四)  被控訴人は、金属回収業者であり、昭和三六年から、本件土地と道路を隔てた向い側の約七〇坪の土地上に約二五坪の居宅兼作業場を所有して経営していたが、同所が手狭となつたため、右土地と併わせて屑鉄置場及び作業場として使用できるような用地を近隣で物色していたところ、本件土地が明け渡されることとなつたのを聞知したので、昭和四三年一〇月ごろ、被控訴人代表者において、控訴人に本件土地の賃貸借を申し込んだ。

(五)  控訴人には、当時、長男(二一歳)、二男(一八歳)、長女(二四歳)、二女(一七歳)の四人の子があり、控訴人は、数年後には、本件土地を、自己とともに燃料商を営んでいた長男のための店舗用地又は二男及び長女のための住居用地にしようと考えていたが、直ちに具体的に利用する計画もなかつたところから、被控訴人代表者とは、それまで格別の情誼関係はなかつたものの、長期間でなければ、近隣のよしみで、被控訴人に賃貸してもよいと考え、同年一一月末ごろ、三代松をまじえて、賃貸について、被控訴人代表者と話し合つた。

(六)  右話合いにおいて、賃貸期間について、控訴人は、一時的な貸借として、従前の例のとおり一年を主張したのに対し、被控訴人代表者は五年を希望したが、三代松が中間の三年を提案したので、控訴人も、しぶしぶこれに従うこととし、結局、期間を三年と定めて本件賃貸借契約を締結した。

2  原審証人柳充希子の証言、原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果中には、右1の(四)ないし(六)の認定に反する部分が存し、特に、賃貸期間の約定についての被控訴人代表者の供述は、原審においては期限の定めがないというものであつたのに対し、当審においては、永久に賃貸するとの約定であつたと変転しているが、右各認定に反する部分は、右認定のような契約締結に至る経過に照らし、とうてい採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

3  したがつて、本件賃貸借においては、期間は三年とする約定であつたというべきである。

三  次に、本件賃貸借の目的が、本件土地を屑鉄置場として使用するものであつたか、建物所有を目的とするものであつたかについて検討する。

1  甲第二号証のうち、控訴人及び三代松の作成名義部分は、原審証人関口三代松の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したものと認められ(ただし、控訴人につき、物件目録中仮設建物の面積の数字の部分を除く。)、被控訴人作成名義部分は、同代表者の記名及び同人名義の印影が同代表者の記名印及び印章によるものであることが争いのない以上、反証のない限り、右の記名及び印影が、同代表者の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、したがつて、真正に成立したものと推定されることになる。

原審及び当審証人柳充希子の証言中には、甲第二号証作成時の状況として、三代松が、被控訴人代表者の不在中に書類を持つて訪れ、何の書類であるか説明もせずに、同女に同代表者の記名印及び印章を貸してほしい旨要求したので、同女が何も理由を訊ねないで右記名印及び印章を三代松に渡したところ、同人は、右書類に押印し、そのままその書類を全部持つて帰つてしまつたため、同女としては何の書類であるか全く判らなかつた旨及び昭和四五年一月中旬ごろ、同女が、所用で三代松方を訪れた際、三代松から封筒入りの書類を渡されたが、何の書類か確かめずに、そのまましまいこんでおき、同年二月、本件工作物の建設中止を求める控訴人からの内容証明郵便がきた際に思い出し、その書類を確かめてみたところ、甲第二号証と同内容の契約書であつた旨の供述部分があり、原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果中にも同旨の供述部分がある。しかし、右供述内容は極めて不自然であり、前記二の1の(四)及び次の2の(三)の事実並びに原審及び当審証人関口三代松、同柳充希子の各証言(ただし、柳充希子の当審での証言中、次の認定に反するものは採用しない。)、原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果によれば、被控訴人は会社組織であるものの、昭和四三年当時、代表者の自宅が営業所となつており、従業員も数人に過ぎない個人会社であり、柳充希子も、家事、育児のかたわら、伝票、帳簿記入等の事務処理を行つていたほか、三代松に依頼して被控訴人の従業員のためのアパートを賃借した際も、契約の締結に関して一切を自己の判断で処理しており、三代松としては、本件賃貸借の契約書の作成について同女が被控訴人名義の記名、押印をなし得る立場にあるものと考えていたことが認められることからすれば、同女は、同女ら一家にとつて極めて重要な意義を有する本件賃貸借をめぐる前記認定のような経緯を当然了知していたものと考えられる上、同女において契約書の内容を確認しないで記名、押印の求めに応じ、また、その内容を直ちに被控訴人代表者に報告しなかつたというようなことは、到底考えられないこと、右供述のとおりとすれば、三代松は、作為を弄して、契約書の内容を秘匿しつつ、被控訴人にとつて不利な内容の契約書を偽造したということになるが、三代松にとつては、被控訴人代表者がたまたま不在であり、しかも充希子において、記名押印の理由を何らたださず、書面も全く読まないまま、記名、押印に応ずるというようなことは到底予測し得ないことであるばかりでなく、そのような作為を弄する必要は全くないことからして、右各供述部分は到底採用できないところであり、結局、甲第二号証中の被控訴人作成名義部分については、次の2の(四)ないし(六)の事実に照らし、その物件目録中の仮設建物の面積の数字の部分を除いて、他に反証はないから、右数字の部分を除く被控訴人作成名義部分は、真正に成立したものと推定すべきである。

2  右物件目録中の仮設建物の面積の数字の部分を除く甲第二号証、原審証人深沢守の証言、原審及び当審証人関口三代松、同柳充希子の各証言(いずれも後記採用しない部分を除く。)、原審及び当審における控訴人本人、被控訴人代表者各尋問の結果(いずれも後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和四三年一一月末ごろ、控訴人と被控訴人代表者が、本件賃貸借の契約締結について話し合つた際、本件土地の使用目的は屑鉄置場兼作業場とすることとしたが、控訴人は、二の1の(五)認定の事情から、三年の期間経過後には必ず明け渡すように求め、これに応じて、被控訴人代表者も、三年後には、他に事業用地を確保して必ず明け渡す旨約し、本件土地に、鉄屑置場及び作業場として使用するための仮設の建物及び設備を設けることができる旨合意した。その際、従前の土井工務店及び中村順造との明渡をめぐる紛争の経験からして、控訴人及び三代松は、本件賃貸借の契約書の作成は弁護士に依頼することを提案し、被控訴人代表者もこれに同意したので、後日、三代松が弁護士に依頼してその契約書を作成してもらうこととなり、同年一二月四日、被控訴人代表者は、三代松に対し、本件賃貸借の仲介手数料として二〇万円を支払つた。しかし、三代松は、その後、多忙であつたところから、右契約書の作成を弁護士に依頼しないままに経過していた。

(二)  被控訴人は、同年一二月初旬ごろ、本件土地の引渡を受けた直後から、従前の賃借人が残置したプレハブ造の建物、残材等を除去して整地を行い、引き続き、本件建物の建築工事に着手して、まずコンクリートの基礎工事を行い、昭和四四年一月には鉄骨の組立て工事を開始した。

(三)  ところが、同月二〇日ころ、控訴人及び三代松は、組み立て始められた本件建物の鉄骨を見て、仮設建物としては、大規模で本格的な構造のように感じたので、直ちに二人で被控訴人代表者に抗議したところ、同人は、降雨の際、鉄屑類が濡れても困るし、作業もできなくては困るので建設するものであり、収去することは容易なので、いつでも収去できるから、三年たてば明け渡す旨述べるとともに、のびのびになつていた契約書の作成について、違約条項等どのように厳しい内容の契約書を作成してもよいから、本件建物の建設を了承してほしい旨懇請したので、控訴人は、右のような趣旨の契約書を作成することを条件として本件建物の建設を承諾した。そして、本件建物は、同年四月ころ完成した。

(四)  そこで、控訴人と三代松は、その直後、以前、中村順造との賃貸借について、契約書の作成、和解、明渡の交渉を依頼したことのある深沢守弁護士に本件賃貸借について、従前からの経緯を説明して、契約書の作成を依頼し、同弁護士は、建築中の本件建物の状況を現場で確認した上、依頼の趣旨にそつて、「土地一時賃貸借契約書」二通を作成し、同月二五日ころ、三代松に交付した。甲第二号証がその一通であるが、作成日付は「昭和四四年 月 日」となつており、関係者の署名押印はなく、物件目録中の仮設建物の床面積の数字は記入されていなかつた。

(五)  三代松は、右契約書の作成日付の年度を訂正した上、契約の始期に日をさかのぼらせて昭和四三年一二月一日と記載し、立会人として自らの記名、押印をしたもの二通に貸主としての控訴人の署名、押印を得、これを被控訴人方に持参し、代表者が不在であつたので、その妻柳充希子に対し、本件賃貸借の契約書を持参したから被控訴人の署名、押印をしてほしい旨述べたところ、同女は、右契約書の内容を確認した上、被控訴人会社取締役社長柳寅建の記名印と柳寅建の印章を交付したので、三代松は、同女の面前で、右契約書二通の借主欄に右記名印及び印章を押印し、その一通を、同女に交付した。

(六)  右契約書においては、本件土地上に存在する仮設建物として「鉄材(鉄骨、鉄筋)等により組立てた波型スレート葺鉄屑収納建物一棟」を表示(ただし、甲第二号証の右建物の表示中の床面積「約七二七・二五平方米(二百二拾坪)」とあるうちの数字の記載は、三代松が記入したものと認められるが、その記入の時期は明らかでない。)した上、被控訴人は、賃貸期間中、本件土地を鉄屑置場として使用するものとし、鉄屑の処理のための設備は収去、搬出の容易であることを要すると定める一方、右表示の仮設建物の設置を認めることを前提として、契約終了の場合の被控訴人の収去義務を定めている。

3  原審および当審証人関口三代松の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中には、本件賃貸借の契約締結の際、被控訴人代表者から、本件土地の使用目的として屑鉄置場に使うということが述べられたのみで、建物を建設する話は全く出なかつた旨の供述部分があるが、原審証人深沢守の証言によれば、昭和四四年一月、控訴人及び三代松が契約書作成の依頼に深沢弁護士を訪れた際、控訴人らは本件土地に予想より大きな建物が建ちそうで困ると述べていたことが認められること、前記のような経過で作成された甲第二号証ではその前文において、被控訴人に、昭和四三年一二月一日、本件土地を一時的に賃貸したところ、被控訴人は「その事業の性質上」同目録記載の仮設建物を設置したが、同物件は規模、体裁からしても一時的、暫定的な仮設物件と認められないおそれがあるので、将来の紛争防止のため、契約内容を明確にするための記載がなされた上、前記2の(六)のような内容が記載されていること、前記二の1の(三)のとおり、被控訴人は、従前の一時的賃貸借においても、仮設建物の設置を認めてきたことに照らすと、右各供述部分はたやすく採用できない。

4  原審及び当審証人柳充希子の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中、右2の(一)、(三)、(五)認定の事実に反する部分は、たやすく採用できない。

5  右2の認定の事実によれば、本件賃貸借においては、期間を三年とし、本件土地を鉄屑置場及び作業場として使用することとなつていたが、そのために仮設の建物及び設備を建設、設置することは、当初から当然予定されていたものであり、右鉄屑置場及び作業場として使用するために本件建物を建設し、所有することは契約上認容されていたものというべきである。

そして、本件建物の構造及び規模からすれば、本件賃貸借は、建物所有を目的とするものといつて妨げないから、本件賃貸借が建物所有を目的とするものである旨の被控訴人の抗弁は理由がある。

四  次に、本件賃貸借が一時使用の賃貸借と認められるか否かについて検討する。

1  前掲甲第六号証、同第七号証、成立に争いのない甲第三号証、原審証人柳充希子、同深沢守、原審及び当審証人関口三代松の各証言、原審における被控訴人代表者(ただし、後記採用しない部分を除く。)、原審及び当審における控訴人本人各尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(一)  本件賃貸借の契約締結の際、賃料を月額一〇万円とするについては、昭和四二年に、控訴人が本件土地の一部を含む前記所有地四六二・八〇平方メートル(一四〇坪)を中村順造に駐車場用地として賃貸した際、訴外関口光正所有の隣接地一九八・三四平方メートル(六〇坪)と併せて月額一〇万円(坪当たり五〇〇円)の賃料で賃貸していたので、近隣のよしみで、それより若干減額(本件土地を二三〇坪とすると、坪当たり約四三五円となる。)したものである(原審における被控訴人代表者尋問の結果中、月額一〇万円の賃料額が特別に高額であつたとする部分は採用できない。)。

(二)  本件賃貸借においては、権利金、敷金ないし保証金は授受されなかつた。

(三)  本件土地を賃貸することにより、控訴人所有の東京都練馬区貫井五丁目一二八七番一及び四の土地の残余の部分三〇三・六七平方メートルは形状のよくない袋地となり、利用価値が乏しくなるが、控訴人としては、本件土地を賃貸する際、本件賃貸借は一時的なものであり、遠くない時期に返還されるものであるから、そのときに全体として利用できればよいと考えていた。

(四)  昭和四五年二月、被控訴人は、本件土地上に本件工作物を建設したので、控訴人は、三代松とともに被控訴人代表者に対し、賃貸期間の残りも二年足らずであるのに、このような規模、構造のものを建てては困る旨口頭で抗議した上、深沢弁護士に依頼して内容証明郵便によつても抗議を申し入れた。

2  本件賃貸借契約締結に至る経緯、その契約内容及びその後の経過は、右1の(一)ないし(四)のほか、前記二の1の(一)ないし(六)、三の2の(一)、(三)及び(四)のとおりであり、控訴人、被控訴人間で作成された前記「土地一時賃貸借契約書」(甲第二号証)には、三の3認定のような前文が記載され、同2の(六)のような条項が記載されているほか、「甲(控訴人を指す。)は、本件土地をその子の住居を建築すべく予定しているものであるところ、乙(被控訴人を指す。)はその事業の性質上本件土地に相当する敷地を必要とする緊急の必要があり、他に相当な敷地を正規に賃貸又は購入する時間的経済的猶予がないので、甲乙協議の上、乙が他に相当な鉄屑処理場を開設するまでの一時的暫定的期間、甲は、乙に対し本件土地を一時的に賃貸し、乙は、本件貸借が臨時的貸借であることを確認してこれを賃貸したものであることを確認する。」旨の記載がある。

3  右2の事実によれば、(一) 控訴人は、本件土地について、従前から期間を一年に限つた短期の賃貸借を繰り返していたこと、(二) 被控訴人に本件土地を賃貸するについては、近隣に事業用地を求める必要に迫られていた被控訴人代表者の懇請により賃貸したものであること、(三) 契約に当たり、控訴人としては、他に見るべき所有地をもたず、数年後には、子らのために本件土地を利用する意図を有していたところから、賃貸期間としては、従前の例のとおり一年を主張し、控訴人の希望との調整を図つて、三年としたこと、(四) しかし、賃貸期間を三年とするについて、控訴人は、三年経過後には、必ず明け渡すことを求め、被控訴人も、このような控訴人の意向を受け入れ、三年後の確実な明渡を約していたこと、(五) 本件土地を被控訴人に賃貸することにより、本件土地に隣接する控訴人所有地の残余の部分の利用価値は極めて乏しくなるが、控訴人としては、本件賃貸借は短期間であるからよいと考えていたこと、(六) 控訴人と被控訴人代表者との間には、これまで格別の情誼関係はなかつたが、本件賃貸借においては権利金、敷金、保証金等は何ら授受されず、賃料も、従前の賃貸借の場合より低額に定められていること、(七) 控訴人は、昭和四四年に被控訴人が本件建物を建設するに際し、仮設建物として予想していた以上の構造、規模のものであるとして被控訴人代表者に抗議し、これに対して、同代表者は、同建物の収去は容易であり、三年経過後には収去する旨確約し、当事者において、改めて、前記のような一時的な貸借である旨を明記した契約書を作成していること、(八) 昭和四五年に被控訴人が本件工作物を建設した際にも、控訴人は、賃貸期間の残存期間が少ないことを理由に、被控訴人に対して抗議していることがうかがわれ、以上のところからすれば、原審における被控訴人代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の一ないし五、原審証人岩崎昭彦、同坂入米重の各証言、原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果により、被控訴人が本件建物及び本件工作物の建設に相当多額の資金を費やしていると認められることを考慮しても、本件賃貸借については、当事者間に、その期間を三年間に限る合意が成立したと認めるべき客観的、合理的な理由が存するものというべきであるから、本件賃貸借は一時使用のための賃貸借であることが明らかである。

4  成立に争いのない乙第一号証、前掲乙第一〇号証の五、乙第二号証(その控訴人の氏名については、原審における控訴人本人尋問の結果により乙第四号証中の控訴人の署名が自署と認められること及び鑑定人長野勝弘の鑑定結果により、これが控訴人の自署によるものであることを認めることができる(原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用しない。)から、真正に成立したものと推定すべきである。)、原審証人岩崎昭彦、当審証人柳充希子の各証言、原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果によれば、控訴人は、昭和四四年一一月ごろ、被控訴人が、本件建物に根抵当権を設定して西武信用金庫から融資を受けた際、地主として、右担保の差入れを承諾していることが認められ、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できない。そして、前掲甲第二号証中には、被控訴人が本件建物を担保として利用することを禁止する約定が存することがうかがわれるが、前記認定のような本件賃貸借の経緯及びその内容からすれば、控訴人の右の承諾は、本件建物の存続を予定している三年間の賃貸期間内について、担保として提供することを承諾した趣旨のものと解されるから、右承諾の事実をもつて、本件賃貸借が一時使用の賃貸借であることを否定することはできないというべきである。

五  したがつて、本件賃貸借については、借地法九条の規定が適用されるものであり、同法一一条の規定の適用はないと解すべきであるから、本件賃貸借は、昭和四六年一一月三〇日の経過をもつて終了したものというべきである。

控訴人の再抗弁1は理由がある。

六  よつて、被控訴人は、本件賃貸借の終了により、控訴人に対し、本件建物及び本件工作物を収去して、本件土地を明け渡すべき義務があり、また、前掲甲第二号証によれば、本件賃貸借契約には、控訴人主張のような損害金支払の約定が存することが認められるから、被控訴人は、控訴人に対し、右終了の日の翌日である昭和四六年一二月一日以降右明渡ずみまで一箇月二〇万円の割合による約定損害金を支払う義務がある。

七  したがつて、控訴人の本件請求は理由があり、これを棄却した原判決は失当であつて、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 香川保一 菊池信男 吉崎直弥)

(別紙) 物件目録〈省略〉

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